注射剤などの無菌製剤の製造で、必ず登場する「フィルター完全性試験」。
無菌ろ過に使われるフィルターが菌を通さない状態にあるかを確認する、非常に重要な試験です。
フィルター完全性試験が不適合になると、原因対応に追われたり、最悪ロット全数廃棄になったりと、大問題になりますね。
この記事では、医薬品製造で行われる完全性試験の種類・実施タイミング・対象となるフィルターを、現場視点でわかりやすく整理します。
フィルター完全性試験とは?
完全性試験(Integrity Test)は、「フィルターが菌を捕集する能力を発揮できる状態にあるか、またはあったか」を確認する試験です。
無菌製剤では、容器に封入した後に滅菌工程を行わない場合は、薬液から菌を取り除けるのはフィルターろ過だけです。
そのため、無菌ろ過のフィルターが十分な能力を有していたかどうかで、製品の品質が決定されると言っても過言ではありません。
完全性試験の合格ラインは、フィルターごとに決まっています。
合格ラインを知りたい場合は、そのフィルターのメーカーに問い合わせるか、カタログを参照しましょう。
完全性試験の対象となるフィルター
完全性試験の対象となるフィルターは、無菌工程に関わるフィルターです。
例えば、以下のようなものがあります。
- 注射剤の無菌ろ過フィルター
- 無菌ろ過終了間際で、ろ過ライン内に残った薬液を圧送するための加圧用エアフィルター
- 加圧方式で充填を行う際の、加圧用エアフィルター
- ベントフィルター(タンクの呼吸フィルター)
- 注射用水タンクの呼吸用ベントフィルター
これらのフィルターは、破損していると医薬品に菌が混入する可能性があります。
よって、完全性試験を行って、フィルターが破損していないことを確認します。
一方、0.45 µmなどの前処理のフィルターや無菌性に直接関わっていないタンクの呼吸用ベントフィルターなどは、完全性試験は実施可能ですが必須ではありません。
完全性試験の種類は3つ
医薬品製造で一般的に使われる完全性試験は、次の3種類です。
- バブルポイント法
- ディフュージョン法
- ウォーターイントリュージョン法
それぞれの特徴を解説していきます。
バブルポイント法(穴の最大径を確認する試験)
バブルポイント法は、最もよく使われる完全性試験です。
フィルターの気孔を液膜(表面張力)が保持している圧力を測ることで、フィルターの性能を評価します。
⚫︎特徴
- もっとも基本的な完全性試験
- 0.2 µmの無菌ろ過フィルターで頻繁に使われる
- 判定基準(バブルポイント値)が明確で分かりやすい
⚫︎試験方法
- フィルターに水を通し、全体を湿らせます。
- エアーでフィルターの1次側(液が流れて来る側)に圧力をかけます。
- 圧力を徐々に上げていきます。
- フィルター2次側(液が出て行く側)に初めて気泡が出てきたときの圧力を読み取ります。
フィルターを濡らしたことで、フィルターの全ての穴が水で塞がれた状態になりますね。
その後1次側から圧力をかけると、最初は水の表面張力で2次側にエアーが抜けていきません。
そこから圧力を上げていくと、フィルターの最も大きい穴に張っている液膜の表面張力が負けて、2次側にエアーが漏れます。
初めてエアーが漏れたときの圧力を、正常なフィルターでやったときの圧力と比較します。大きすぎる穴が開いてないかを確認しています。
※説明動画がありましたので、ご参考に
ディフュージョン法(気体拡散量を測る試験)
ディフュージョン法は、フィルターを通り抜ける微量な気体の流量を測定する試験です。
「フィルターの2次側(液が出て行く側)へのガスの拡散量が基準の範囲内かどうか」を判断します。
⚫︎特徴
- 0.2 µmの無菌ろ過フィルターで広く使われる
- オートメーション機器で使われやすい
- “フォワードフローテスト”と呼ばれることもある
⚫︎試験方法
- フィルターに水を通して、全体を湿らせます。
- フィルターの1次側(液が流れて来る側)から、テスト圧力までゆっくりと圧力をかけます。
- 一定時間維持し、圧力と流量が安定するのを待ちます。
- 一定時間(1分間など)にフィルターの2次側へ拡散するガスの流量を測定します。
フィルター全体が湿っていると、膜がフィルターの穴を塞いでいるため、1次側のガスが2次側に抜けていきません(これを、エアロックと言います)。
ただし実際は、拡散によってガスが膜を通過し、わずかに2次側へ通っています。
ディフュージョン法は、そのわずかな拡散をチェックして、基準範囲内であることを確認する試験です。
当然、フィルターが破れていれば2次側にガスが大量に流れ込むため、試験不適合となりますね。
ウォーターイントリュージョン法(疎水性フィルター向け)
ウォーターイントリュージョン法は、疎水性フィルターに対して行う完全性試験です。
疎水性フィルターは水を通しにくいため、バブルポイントやディフュージョン法が使えません。
そこで 水がフィルターに“侵入しようとする圧力” を測ることで性能を評価します。
⚫︎特徴
- エアベントフィルター、ガスろ過フィルター向け
- 液相のテストが難しい疎水性フィルターに最適
⚫︎試験方法
- フィルターの1次側に高精度の流量計をセットします。
- フィルター1次側から流量計までを水で満たします。
- 1次側から一定の圧力をかけます。
- 一定時間維持し、圧力と流量が安定するのを待ちます。
- 一定時間(1分間など)にフィルター1次側の水の移動量を測定します。
疎水性フィルターは、水を通しません。
ですが、1次側を水で満たした状態で圧力をかけることで、わずかですがフィルターに浸透していきます。
そのときに水が浸透した量(=1次側の水が移動した量)を高精度の流量計で測定して、基準値内かどうかを判定します。
フィルター完全性試験を行うタイミング
フィルター完全性試験を行うのは、一般的には次の3つのタイミングです。
すべてを実施するかどうかは、各国のガイドライン・各医薬品会社の考え方・その製品の製造方法に依ります。
- SIP(滅菌)前
・フィルター自体が正常なことを事前確認
・不良フィルターをSIPしても意味がないため
・SIP前のため、フィルターが不良だったときの対応が容易 - ろ過前
・無菌ろ過能力が発揮できる状態であることを事前確認
・PUPSIT(パプシット)と呼ばれることもある
・EU GMPではろ過前完全性試験を求められる(参考:Annex 1, Manufacture of Sterile Medicinal Products)
・フィルターが不良の場合は、フィルター交換後、装置のSIPが必要 - ろ過後(製造後)
・無菌ろ過が問題なく行えた証明(最終保証)
・フィルターが不良で完全性試験が不適合の場合、ロット全数廃棄になる可能性がある
特にろ過後完全性試験は重要で、不適合の場合にロット全数廃棄になる恐れがあるため厄介です。
その前段階として、事前にフィルターに異常がないことを確認するため、ろ過前完全性試験、さらにSIP前完全性試験をする場合はあります。
ろ過前完全性試験は、世界の潮流としては求められるようになってきています。
まとめ:フィルター完全性試験は無菌製剤の品質を保証するのに重要
フィルター完全性試験は、次の3つがポイントです。
- 対象:無菌工程に関わるすべてのフィルター
- 種類:バブルポイント/ディフュージョン/ウォーターイントリュージョン
- タイミング:SIP前、ろ過前、ろ過後
無菌製剤では「フィルターが正常かどうか」が、製品品質に直結します。
設備の滅菌(SIP)と同じく、完全性試験は重要な工程管理ポイントです。


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